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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

心細さと肌寒さを防いだ。春はまだ浅いのだ。うしろにせまった山には雪が残っていた。その冷たい空気が、暮れおちるとともに吹きおろして来る。

「灯がついた」

そう叫んだのは子供であった。

「おう」と大人が応じた。いや、そのとき、この大人も子供になっていた。手をたたくようにして彼は云った。

「人がおった!」

家があって、漁船が繋がれていて、それとなく炊煙の匂いも感ぜられる魚臭い浜に、人がおった! 不思議でもないことが不思議なのである。あたり前のことが天佑のようにありがたいのである。

一つ二つと灯は殖えた。――窓や廂から洩れてあたたかげに見えた。

会計士官は提灯をふりかざし、どたどたとやって来た。

「ご迷惑をかけました」と、彼らの一人は一段落したよろこびに浮き浮きし、事の次第を語りだした。その愉快さはまだ幾らか酔っているような口振りであった。

「土民の無知は呆れはてましたよ、檣頭たかく掲げたみ国の旗章さえとんと存じておらんのでございます、――それ、黒船が来おった、戦がはじまった、こう思うたと云うのでございまして、そら逃げろ、持てるだけのものを持って遁走しろ、他国ものには決して見つからぬあの裏山の間道に駈けこめ――かようなわけで、見るもぶざまな周章狼狽――そうら、いよいよ小船をおろした、と、本官らの下船をみとめて、家をもぬけ