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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
中流の水はとてつもない大きな塊りであった。ごろんごろんと転げるように動いていた。もくりと崩れる渦巻が強い波紋をひろげていた。
「とにかく何だ――腹をこしらえましょう」
「ほかに路は無いのか」
「ない――ありゃしない――いま歩いて来た通りだ」と、人夫は俯向いて云った。趾の先で土を踏みにじりながら「しかし、向う側には、あることはあるんだが――あちらは何と云っても官のいる方面だ、ひらけかたも早いですねえ、少しまわればイシカリ通いの道にも出られないことはない、それにしても」
川水は刻々増して来るようであった。一瞬のうちに余程ふくれあがったように見えて来た。
「――漕いで渡らなければならぬとすると」と、案内人は顔をあげた。
「渡って貰おう――」と玉目三郎は即座に云った。
「渡りますか?」
「渡る」
人夫はちらと相手の腰のあたりを見た。簑の間から例の脇差がのぞいていた。
「渡りやしょう、思い切って、ほかにゃアどうする手もねえんだ――とにかく、腹をこしらえなくっちゃ」
それからあとの彼らは一言も云わなかった。幅せまく刳りぬかれた舟の長さと波のうねりの大さとは、彼らの眼がとっくに比較していたのだ。