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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
それが済むと、こんどは高倉が、鋸屋の風除けになった。彼は背負ごのなかから雲斎織の上ッぱりを出した。風に揉まれてくるくる舞いながら、ながいことかかって襟をかき合せた。
とにかく一刻も早く山をおりなければならぬと思った。晴れていたならば、彼らの目ざすトウベツは、ここからは指呼の間にある。
その励まし合いを嗤うように、風はますます猛々しくなった。粉雪は視界をすべて覆った。ふいに、茫々としたうす闇のなかに立っていた。それでも彼らは歩きだした。心覚えの方向を取って進んで行った。取りだした磁石には、針も見定めぬうちに粉雪が凍りついた。その金属が指にぴたっと吸着した。そこを、巻き風が平手打ちのようにたたきつけるのだ。よろけた足を踏みしめたときには、その風に押しこくられて幾らか方角が異ったような気がした。そう思って迷いだすと、今まで歩いていた彼らの前後左右が見喪われた。どちらを向いても偽りのような気がした。急に高倉は蹲んだ。彼はそうやって、磁石を内ぶところに入れた。体温をあたえた。それから方角を取り戻した。
イシカリの大きな原野が、宏い空と呼応して吹雪きだしたのであった。