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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
幾らか焦って来た。すると、一度は明瞭になったと思った頭のなかの地図がまた乱れだした。もっとも彼らは再びそれを口にしなかった。疲れていた。腹も空っていた。寒気は、夜が深まるにつれて、身に迫って疼めつけて来た。口を利けば、残り少ない元気が消えてしまうのを怖れた。
その実、彼らは、段丘の裾を歩いていたのだ。荒雪に埋まったイシカリの原野の広さに、彼らの疲れた神経が錯覚を起していたのだ。彼らが信じた川の岸壁は、広漠とした段丘の外れであった。吹きつけて来た風や雪は、この外れに来て不意に凹みを跳び越える。そのたびに雪の庇が深くなった。その上を一気に辷りおりて、遮るものもないイシカリの原野に暴れて行く。原野にある高みの雪は削り取られて低みに運ばれる。吹雪は原野の面を磨いて一枚の鏡のようにまッ平らにした。川も溝も見境えは無くなった。イシカリ川は平担な雪の野であった。水の音など聞えようわけは無かった。
それでも歩いた。そのくせ、歩くにつれて不安は大きくなった。思いに疑懼がきざして来ると、黙っているのはなお心細くなる。高倉は自然に歩調をおとしていた。それとなくもう一度相談してみたかった。