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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
ただただ、目をさましてくれろと願ったのだ。この自分も曠野のなかのこの闇のなかで、生きている相手がほしかったのだ。そうして、彼は、殴り疲れてぶっ倒れた。
深くはなかったが、その穴のなかでは、二月の雪が底の方から融けていた。たった今、雪から水に還ったこまかい粒が、集まって滴くとなった。穴の天井にぶらぶらと吊って、ついにその重みで墜ちて来た。滴くは高倉の襟首にすべって背すじに流れた。彼はまた目をひらいた。すでにさきほどの狂熱は去っていた。彼はしずかに横を見た。鋸屋は上半身を穴に入れ、投げだした下腹部から先はもう雪に埋められていた。顔はよく見えなかったが、なぜかありありと目に浮ぶのであった。動かすと、そのものの身体は丸太のようにごろんところげた。
「死んだか?」
むろん返事は無かった。
けれども、この場を去ることは出来なかった。
彼はこのまま夜明けを待とうと思った。それが死者に対する礼でもあると思うのだ。もっとも彼は、独りこの穴を彷い出たとしても、目あてのところに行き着くと云う自信は無くしていた。同時に、こうしていれば傍らの鋸屋と同じ運命になるかも知れぬとも惧れた。