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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页
流れは一棹押して離れるごとにもりもり逞ましくなった。棹は役に立たなくなった。手早く櫂と取りかえた。中流に漕ぎだそうと悶えている丸木舟を、立ちさわぐ波はせせら笑っていた。対岸は徐々にむしろ遠ざかるかと思われた。間近かに迫ると、のしかかって来る濁流であった。暗い雨空をうつした上に、泥土や砂礫を溶しこみ、くすぶった色でさまざまな流木を内部にかくしていた。舟はつきとばされるのだ。そうして、大きく迂回する正面の淵に向って、まっしぐらに押し流されだした。
櫂をあやつる人夫と背中あわせになり、両脚を舟ばたでささえた玉目三郎であった。襲い来るうしろの敵に棹を構えてそなえていた。波間に浮き沈みする木の枝や草の根のかたまりは、流れの強さと共にすさまじくなって来る。ついと押しやったあとから、ぬっと頭をあらわす新たな伏兵には限りがなかった。「たのむぞ」、「しっかり」と叫ぶ声も胸の中だけであった。舟は角度をつけて泳ぎ渡ろうとしていた。流れはそうさせまいと舟のつくる斜面にまっ直ぐにぶっつかった。それでも漕ぎぬけようとした。するとまた、更に頑強な新手が加わって来た。流木は次第に大きく重くなった。