轻读日语

轻松读懂日语经典作品

ja-reading.com

轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。

いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

夜明けの闇が冷たく漂い、ちょろちょろと燃えあがる焚火の焔もはかなげであった。彼は相手の顔を見ないようにして出された笠の緒をつかんだ。彼女もまた、つとめて彼を見まいとしているようであった。夫の身体はその心労とともに、まことに、席の温まる暇もあたえられなかった。そして、一度家の閾を外にしたならば、何時なんどき相果てるかも知れないという――それが彼らの常識であり、心構えであらねばならぬのだ。そういう最悪の場合に立ちいたっても、従容として帰するがごとく身を持さねばならぬ。彼らにとって、一たんの離別は永久のそれにも通じないわけではない。そうでないと誰が保証出来るものか。

やるせない思いは、しげしげと顔も見得ない彼女の態度のうちに煮えくりかえっているのだ。男の腕が笠を引きよせて行く動作にずるずると引きよせられ、前のめりに倒れそうであった。気づいて危くその腕に取りすがった。

「どうした?」と阿賀妻は見下した。

「手甲の紐がとけて」

「あ、――」

彼女は掌の中に男の腕を挾んでひきよせていた。ほどけた真田紐を丁寧に巻きつけている女の容姿もやつれていた。ほつれ毛もないようなあの丸髷は空しくつぶされ、ぐるぐると櫛巻きにした洗い髪が、襟にあてた手拭の上におくれ毛を散らばらせていた。