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いしかりがわ

石狩川

本庄 陸男

「石狩川」大観堂、1939(昭和14)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 253,535 字 · 506 页

青空文庫

「来て見るがよい――ここの風致は、クリコマ山を見るごとしじゃ」

その山の名が彼らの胸を波立たした。倒れこんだ根木につらまって河原に降り立つ彼らに、戸田老人は、トウベツの山々を指さして云った。

「似ておるでござろうが」

「さあ?――」と一瞥した大野順平がうす笑いで云った。

「ご老体、気はたしかでしょうな」

耄けなさるな――と言外に含ませて、老人の幻想はむざんに壊された。彼の惨憺たる思いは、顔のかたちをありありと歪めていた。

ふいに彼はそこの水際に両手をついた。あッと云う間に股眼鏡をしていたのである。咽せるような声で下から云った。

「これが似とらんなぞと――見なされ」

阿賀妻が並んで尻を立て、同じ恰好になった。

「なるほど、なるほど――」と彼は更に錯覚を深めるように云った、「即ちこれが、エアヒ川とでも申そうか――すると城地はどちらにござろう――童児のころもなつかしまれます」

倒置したこの地形に郷里の風景を描きだしていた。牽強附会と云われるかも知れないが、地勢は郷里に似ていないこともない。そして、その相似の幻想のなかに、彼らの家中を配置し、彼らによって作られる新たな村を想像していたのであろう。