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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
時やんは、昔から、姐さんに惚れとったとじゃろ? 姐さんと夫婦になりたいばっかりに、村を飛びだして、尋ねて来たとじゃろ? その時やんを、迎えにやるなんて……」
「時やんが、自分で行くというたんぞな」
「なお、危いじゃないか」
「オヤジには、小いときから、そがいな胆の切れるところがあったのはあった。わしらには出来んことぞな」
「おれが知っとるが、時やんは、いつか、こんなときの来るのを、待ちかまえとったんじゃ。……帰るかなあ……?」
二人は、この内憂外患のときにのんきたらしく、上機嫌で、「ゴンゾ唄」などを歌っている金五郎が、不思議でたまらなかった。
高塔山の頂上の、乗りあげた軍艦のような松林のかげに、真紅の夕焼をきらめかせて、太陽が沈んだ。暗くなってしまわないうちに、メキシコ丸の荷役も終った。
道具をかたづけ、全員、二隻の伝馬船に分乗して、聯合組のある若松側岸壁に引きあげた。
金五郎は、事務所に入って、荷役終了を告げ、掛けられてある「玉井組」の番札を、後に下げた。
海岸にある「玉井組詰所」では、「小使」と称する賃銀の内金を、松本重雄が子分連中に渡している。勘定は半月毎にすることになっていて、仕事のあった日は、帰りに、夫婦者は三十銭、独身者は二十銭、内渡しするのである。