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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
そのことについて、宿で懇談したい。そのほかにも、君と膝つきあわせて、話しあいたいことがある」
「承ります」
二人の会話を、井上安五郎が、苦々しげな、そして、気づかわしげな表情で聞いていた。
改札口を出た。
群衆の中に立って、金五郎は天井をふり仰いだ。
降車口の屋根は、外から見ると、青銅の円塔になっている。その内側の天井は純白に塗られて、巨大な蝙蝠傘のように、高く聳えている。内壁は十二に区切られて、そこに、十二支の絵が淡彩で描かれてあった。中央の円の中には、天女が飛んでいる。迦陵頻伽かも知れない。
(ネ、ウシ、トラ、ウ、タツ、……)
金五郎は、心の中で、エトを数えながら、辰のところに来て、眼を止めた。らんらんと眼を光らせた一匹の龍が、踊るような恰好で、高い天井から、自分を見おろしている。金五郎は、そっと右手を、洋服の上から、左腕に当てた。
(ここにも、一匹、龍がいるのだが、……)
そして、憂鬱そうな顔をした。
このとき、周囲の群衆が、にわかに騒ぎだした。金五郎はひどく突き飛ばされた。危く左手のカバンを落すところだった。
「掏摸だ。逃がすな」
そんな声がした。