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はなとりゅう

花と龍

火野 葦平

花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页

青空文庫

危険感はまったくなかった。彼等に殺意のないことを、金五郎は、敏感に、看破した。しかし、笑いだしたい衝動を、無理な渋面で押し殺して、すこしふるえ声でいった。

「大層、派手に、わたしを嚇かしなさるが、どげなわけかね?」

「嚇かしじゃありませんです。場合によっては、命を頂戴します」

そういう、隊長らしい、長身の四十男を、金五郎は、どこかで逢ったように思ったけれども、はっきりした記憶がなかった。そういえば、暴力団連中の顔も、どれもこれも、見たようだと思うだけで、名前を知っている者は一人もいない。

隊長の両腕に、唐獅子の彫青が見える。いやに落ちついた、馬鹿叮嚀な言葉つきで、夜目にも白く眼の光る、ちょっと凄味のある男である。きっと、今夜の演出家にちがいない。

「場合によっては、というのは?」

金五郎は、懐手をしたまま、訊ねた。懐手をしていることは危険にきまっているが、敵の芝居気が伝染したのである。

「わたしは使者ですから、言付だけを伝えます」

「聞こう」

「民政党に入党して下さい」

「せん」

「今夜が最後の勧告です。もう、選挙も間近に迫っています。民政党は十八日の大安に、一斉届出、中立聯盟はそれよりすこし先とのこと、あなたが中立団として届出するまえに、こうやって、最後の決意をうながす次第です。