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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
公会堂で、いきなり、声をかけられたときにはね。でも、糞度胸を定めて逢ったさ。なにもかも、話してやった――ふウン、これが、おッ母さんの恋敵か? この女から、おッ母さんが敗けたのか?……そう思うと、あたしは、一層、決心が堅まったよ」
「ヘッ、どうも、お前という女は、解せねえよ。お京さんが、若えころは、おれの親父を悩ましたというが、お前も、まったく、おれを悩ます。わからねえ。身体つきも、眼つきも、色気たっぷりと来てやがる癖に、まだ男を知らねえ処女なんて、誰だって思う者はねえぜ」
「あたしは、おッ母さんを見てて、男というものが恐くなったのさ。いや、女というものが、といった方がいいかな?……女は哀れなものだよ。だから、あたしは大事を踏んでるんだ。柄に似あわないといわれたってね」
お葉は、煙草をふかしながら、夢見るような瞳になって、沖の漁船が、魚のはねる網を引きあげるのを眺めている。その青味がかった瞳は、
(玉井金五郎さんを、あの魚のように、きっと、あたしの網のなかに入れてみせる。おッ母さんは、網から逃がしてしまったけど、……)
妖しい光をただよわせて、はっきりと、そのことを語っているようだった。