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はなとりゅう
花と龍
火野 葦平
花と龍「読売新聞」読売新聞社、1952(昭和27)年6月20日~1953(昭和28)年5月11日<br>あとがき「花と龍(下巻)」新潮社、1953(昭和28)年7月31日<br>解説「火野葦平選集 第五巻」東京創元社、1958(昭和33)年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 410,131 字 · 824 页
十郎のいらいらした表情には、なにかの耐えがたい感情を、歯をくいしばっておさえている、苦渋のいろが読みとれる。
お葉は、うっとりとした眸で、海を見ながら、ひとりごとのように、
「きっと、おッ母さんの命令を果してみせるわ。いや、もう、あたしは、身も、心も、おッ母さんになりきってるの。玉井のごりょんさんには、一番大事なことは話さなかった。誰が話すもんか。あたしには、自信がある。おッ母さんは、あたしに、二つの命令を降した。一つの方は、駄目かも知れない――右腕にも、降り龍を彫る約束がしてあるから、お前が約束を果しておいで。……おッ母さんは、そういったけれど、どうだか?……でも、もう一つの方は、……きっと、きっと、……」
狂気に近い妄執を、その眼に燃やしている女を、十郎はあきれた顔つきで見た。
「お葉さん、お前、本気で、玉井金五郎の子を孕む気かい?」
「本気でなくってさ」
「おどろいたもんだなあ。親子二代の横恋慕かい。惚れるなら、若い方にしたら、どうだね? 息子の勝則に、……」
「なにいってんのさ。嫌なこったよ。あたしの目標は玉井金五郎、ただ一人よ。おッ母さんが、あたしに乗りうつってるんだ。