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さこく

鎖国

和辻 哲郎

日本の悲劇

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 443,306 字 · 875 页

青空文庫

かくしてコルテスの軍隊が遂にメキシコの町に乗り込んだのは、一五一九年の十一月八日である。堤道は八歩の広さであったが、見物人の往来で通行困難を感じた。塔や神殿も悉く見物人に覆われ、湖にも一面に見物人の舟が群った。それも道理で、彼らは白人や馬を曽て見たことがないのであった。ところでこの無数の人の群の中を通って行くスペイン人はと言えば、僅か三百の小部隊なのである。「これほど大胆な冒険を企てた人々が曽てあったろうか」とベルナール・ディアスが記しているのも無理はない。

町の大通りではメキシコ王が、貴族たちのかつぐ玉座に坐し二百人の華やかな従者を従えて迎えに出た。スペイン人が近づくと王は玉座を降り、拡げられた敷物の上を歩いて来た。豊かな彩衣をつけ、緑色の羽飾りの冠を頂き、足には宝石を鏤めた黄金の履をはいていた。看衆は王を直視することは許されない。すべての人は恭しく眼を伏せた。コルテスは馬を降りて王に近づき、贈物としてガラス玉の鎖を王の頸にかけた。彼は更に王を抱擁しようとさえしたのであるが、それは神聖を涜すものとして側近の貴族に遮られた。王はコルテスへの豊かな贈物を残して従者と共に引上げて行った。