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さこく

鎖国

和辻 哲郎

日本の悲劇

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 443,306 字 · 875 页

青空文庫

この際強硬であったのはむしろ、信玄と義昭とである。信玄は義昭にあてて信長の罪五カ条を数えた意見書を送ったが、叡山撲滅はその罪の大きいものであり、従って叡山復興が信玄の主たる目的とされていた。フロイスによると、信玄は信長に宛てた書簡に「天台の座主沙門信玄」と署名し、信長はその返書に「第六天の魔王信長」と署名したといわれる。これは二人の英雄の間に取り交わされた諧謔の応答に過ぎぬが、しかしその背後には両者の仏教に対する態度が示されている。フロイスはその点を敏感に感じて、信長が容易に上京し得ないような窮境に陥っていることを憂慮し、信玄が上京して叡山を復興した場合の迫害についてさえも心構えをしようとしていた。

が、そういう不安はフロイスに限ったことではない。京都の市民全体が非常な不安に陥り、避難の準備で騒いでいた。家財の荷造り、市外への運搬、それに対する兵士たちの掠奪、そういう騒ぎが毎日続いた。フロイスも祭具や書籍を醍醐、八幡などに送った。やがて女子供たちの避難も始められた。当時オルガンチノとロレンソは三箇に滞在していたが、その三箇の領主はフロイスに避難をすすめて来た。