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さこく
鎖国
和辻 哲郎
日本の悲劇
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 443,306 字 · 875 页
彼に於て認識の仕事が政治力と結合し、政治力が理智の眼を持ったのである。
ヘンリの性格として伝えられるところも、この事実にふさわしい。彼の態度は物静かであったが、言葉はきっぱりとしていて、厳格な感じを与えた。生活は簡素で、酒や女を近づけず、感情に流れることをしなかった。人の過ちに対しては寛容であったが、しかし決断に富み、粘り強く持ち耐える力があった。
さてこのヘンリが冷静に辛抱強く突破しようと試みた困難は、先ず第一に、当時の航海術の幼稚さであった。ヴェネチア人が初めて英国への航路を開き、リスボンをその中休みの港として以来、まだ百年を経ていない。航海は岸伝いにしか出来なかったのである。尤も磁針の効能は既に知られていたのであったが、航海者はまだそれに頼るに至らなかった。そういう状態の下にヘンリはしばしば探検船を送ったのである。それらはいずれも既に知られているボハドル岬まで行くことが出来た。しかしこの岬が岸伝い航海の関なのであった。それは四十海里ほど西へ突き出て居り、更にその突端から六七里ほどの海中に暗礁があって、物凄い波をあげている。それを避けるためには岸伝いの常法を破ってよほど遠く海の中へ出て行かなくてはならぬ。