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さこく

鎖国

和辻 哲郎

日本の悲劇

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 443,306 字 · 875 页

青空文庫

しかしそれは純然たる取引であって、未知の領域への探求などではない。根本にある知的能力は彼にとって問題ではなく、ただかかる能力の産み出した果実だけが彼に必要だったのである。これは在来キリスト教を排撃しつつただポルトガル貿易の利益だけを得ようとしていた諸大名の態度を、一層巧妙な仕方で現わしたものに過ぎない。その肝腎の点をクエリヨは看取しなかったように見える。

フロイスとロレンソとは、永い間信長に接していた関係上、この点に気づかなかった筈はない。この時の謁見のあとで秀吉はクエリヨの一行を天守閣に案内し、そこに貯蔵された巨大な富や物資を自慢して聞かせたり、最上階まで連れて行って四方を展望しながら九州征伐の計画について気焔を吐いたりしたのであるが、その際フロイスは、秀吉の自慢する黄金の組立茶室を、是非拝見したいと云い出しているし、雄弁なロレンソは口を緘して何事も喋舌らなかった。これはいずれもこの人たちの平生の態度ではない。秀吉は、曽て信長の面前でフロイスと日乗とが激論し、日乗がロレンソを切ろうとした時のことを云い出し、老いたるロレンソの頭に手を載せて、「お前は何故黙っていて話をしないのだ」