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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

若くて、水の垂れるほど美しい姿が、片鴛鴦のように、悄然と、枯れ柳の下に凍ったまま、伝右衛門が橋を渡りきるまで、じいと、見送っているのだった。

「どこの娘?」

伝右は、鞍つぼの上で、考えた。

町家の女ではなく、身装やもの腰は武家の娘である。しかし良家の子女が、ひとりであんな場所に佇立んでいるのはおかしい。

数えてみると、伝右衛門は、その江戸紫の頭巾を、これで何度見ているか分らなかった。

白金の中屋敷の近くでも一、二遍、札の辻あたりでも――またこの金杉橋では今日でもう三、四度。

ある時は、はっと、用ありげに眼を惑わせながら、そのくせ、近づいて来る気ぶりはなく、いつも濡れているような眸を投げて佇立んでいるきりだった。

「品よく見せてはいるが、娼婦かも知れぬ」

そうも、考えられた。

どぎつい元禄の風俗、華美な女、世相に浮いてる油のような表皮は、すべて軽薄なもの、腐敗をつつんだものと伝右衛門はきめていた。

「――お帰り遊ばしませ」

式台には、いつも通り、妻の磯女と娘のお麗とが、指をついて迎えた。お麗の笑顔や、貞淑な妻のそれを見るだけで、もう彼の疲労は忘れてしまうのだった。