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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁
四
と、槍を持直した。
が――御主人は、
「ア。待て」
と叫ばれたようだった。けれど源右衛門の槍は、気早く、わしの体を突き刺していた。わしはひっといいながら蹴っ立った。その弾みと、源右衛門の槍の力に撥ねられて、わしの体は、後ろの崖へ勢いよく辷り込んだ。
四
わしはすぐ気がついた。――と思っていたが、事実は、一刻以上も、崖の途中に、仮死の姿でぶら下がっていたものであろう。
槍は、深股の辺を、突き貫いていた。ひどく出血はしたが、生命は取りとめた。痛みなどは、少しも覚えなかった。
お床几のあった以前の頂まで、わしは懸命に這い上がって来た。――だがそこには暗い木々が山巒に嘯いているだけだった。
「……う、わっ?」
わしは四山の眠りを驚かすような大声を突然揚げて、無意識に両手を宙へ振廻した。
どんなに驚いても、哭いても、及びつかないものを見た。まさに、京都の空である。ぼうと一面に真ッ赤なのだ。
赤い夜霧の中に、さらに一際赤く、ちらちらと、屋根の波から火を吐いている箇所がある――
「本能寺だ!」
わしは、恐ろしさに、髪の毛が逆立った。
人間の世の地獄変!
わしの老母も、あの火に焼かれたのだ。