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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

三

あの片目は、酔うておるのか」

と、苦々しく云った。

「はい。ちと酒を飲べ過ごすと、前後の弁えなく、心にもない大言を吐き、手におえぬ乱酔者にござります。ぶしつけな申し条、きっと、父として後刻、懲らしめまするゆえ、平にお宥し置き下さりますよう」

家光は、許すとも許さぬともいわず、しばらく黙然としていたが、但馬守の老いの白髪を見ると、不愍を感じたのであろう、

「目触りじゃ。誰ぞ、あの片目を、見えぬ所へ追い立てい」

と云って、床几を向きかえ、

「そうだ、試合を続けい。十兵衛に代って、又十郎に立ち対う者はないか」

但馬守は、ほっとしたように、顔を上げた。同時に、静かに立って、

「酔いどれの十兵衛に代り、てまえが又十郎の相手いたしまする。久しく木剣も取りませぬゆえ、試合の程、心許ない心地もいたしますなれど、不興の償いともならば――」

人々は、彼の落着いた身支度と、枯淡な人がらに固唾をのんで見惚れた。また、子を庇う親心と、君に仕える身の辛さを思いやって、惻隠の情に打たれた。

「又十郎、よいか」

と、但馬守は、木剣を把って、広芝の中ほどに出ていた。

三

試合である以上、父子の間でも、微塵の仮借もあろうわけはない。