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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

花菖蒲

一

「いきなり練薬などつけたって駄目だぞ。先に、酒か焼酎で傷口を洗っておかなくっちゃ」

船世帯の流し元から、権十は焼酎を持って来て、襤褸を裂いた。そして、低声をふるわせて、

「お松、おらは、陸のほうを見ているでな、早く手当をしてあげて、燈火を消しちまわねえといかねえぞ」

といった。

苫の隙間から、権十は陸を睨んでいた。黒い人影が、雪明りの岸を時折通ってゆく。それがみんな役人に見えてならなかった。隣の干鰯船へは、まだ八の帰って来た様子もない。

花菖蒲

一

夜が明けると――

つかえていた芥が堰を切ったように、われがちに、河番所の柵へ船が殺到した。

「喧ましいっ」

「鎮まれっ」

「いくら急いても、お検察めのすまぬうちは、通すこと成らんのだ。順番を待ちおろう」

河番所も、常よりは役人の手を殖やし、江戸表から来た同心などは、素槍を持って中に交じっていた。戦時のような厳しさなのである。

「よしっ」

調べの済んだ船には、関宿河役人という判のすわった検札を渡し、

「次! ――次っ――」

と、敏速に、手分けして、役人たちは飛び移ってくる。

「船鑑札を見せい」

と、権十の船へも、その二、三人が来るなり権柄にいった。