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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁
……視える! ……聴こえる!
刑部の胸には、鏡のように、時勢の渦が――その赴く流れの行方が映る。
今、刑部のまわりには、五、六十人の兵が囲んでいた。ほかの手勢は、裏切者の秀秋の大軍とぶつかって、敵を三百五十も討ち、味方も百以上の死傷を出したので、その後は、四散してしまっている。刑部のすがたを丘の上に見つけて、喘ぎながら集まって来る者もあったが、極めて、少数だった。
その者たちは、皆、主人の前にぬかずいて、
「平塚因幡殿も、討死いたしました」
「重政殿も、お見事に」
と、味方の悲壮な敗報ばかりを伝えた。
「うむ……。うむ……」
刑部の顔には、血膿がながれていた。血の涙のように家臣たちには見えた。
一族あらかた、先を急ぐ木の葉のように散り終った。刑部は、しかしまだ輿のうちに、黙然と、坐していた。
「……治部も、遂に、行くところまで来てしもうたな、惜しい男だが」
呟くのが、側の者に微かに聞えた。
見えぬ眼が、その時、きっと横を見た。騒めきのうちに、何を知ったのであろう。
「五助かっ」
と、云った。
「はっ、五助、参りました」
湯浅五助がもどったのである。
刑部は、この男の報告を待っているのだ。