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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

……又十郎といえば、あいつは二刀流だな。わしは眼も一つ、好きも一つだが」

「お戯れを」

「お前と飲んでいると、他人と飲んでいるようだ。酒は魂と魂の接触、お互いの血が交流するところに味のあるものだが……」

血潮の事をいわれると、右門は、さし俯向いて、涙ぐんだ。十兵衛には、彼の感傷にあるような細い神経はないのだが、右門には、種々な悶えや僻みが当然胸を塞いでくるのだった。

「はははは。右門、おまえは酒呑みじゃなかったな。おれの言葉は無理だったかも知れん。――だが、もう少し日常快活に暮せよ。野望を持てよ。剣道が嫌いなら嫌いでいい。何か、政治に心を燃やしてみるとか、禅をやるとか、軍学を究めてみるとか」

「禅門に入ってみたいと思っております」

「よかろう。だが、禅とは、大悟のことだ。おまえみたいな小胆者では、大悟はおろか、迷って見ることもできはせぬ。――まあ、養子の口だな。お父上も心がけておるらしい。いい養子先があったら行く事だ」

十兵衛の無関心な放言は、右門が日常、針を抱くように考えつめていた事ばかりだった。それへざらざらと触るのである。月の莚は彼には、針の筵だった。