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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

大根河岸の市場はわいわいと旺だ。金、金、金と突ンのめるほど町人たちは首を前へ出して駈け歩いている。登城する騎馬の侍だの、駕籠の列にも意地わるくよく行き会う。

又十郎宗冬は、なるべく裏通り裏通りと選んで歩いた。八重洲河岸の屋敷へ近づくにつれて、難しい父の顔が胸につかえてくる。登城して、もう屋敷にはいない時刻だが、

(留守であってくれればいいが)

と、万一の場合を惧れて、そればかりが祈られる。

二十四歳にもなったが、父の恐さは、幼少と変らなかった。いや、湯女のお駒に家を持たせて、屋敷を空けがちになってからは、よけいにあの眼が、あの眉が、いつも自分を睨めまわしている気がした。あたかも司直と罪人の間のように。

獄を出て獄へ帰るかのような悶えに絡まれながら、彼はやがて八重洲原まで来ていた。もうすぐそこに厳しいわが家の門と白い土塀があった。

「はてな? 何だろう」

又十郎は、ふと足を止めた。

古編笠をかぶった浪人者が一名、埃臭い蝙蝠羽織に、溝染の袷を着、肩をそびやかして傲然と、門前に突っ立っている。――そしてそれを囲んで、門番や家来の者たちが、

「たとえお在でであろうと、御不在であろうと、殿御自身が、風来の訪問者と、お試合になるなどという事は決してない。