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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁
四
「ちがう、ちがう」
金を置くと、大福餅の粉をはたきながら、すぐ黙々と歩き出した。
二十歩ほど過ぎてから、旗岡巡査は振り向いて呟いた。
「おそろしいものだ。まだ、わしの顔を覚えている人間がいるとみえる」
四
自分でさえもう他人の名のような気のしている海後磋磯之介という姓名なのだ。それをいきなり今日のように、
(旦那は、桜田の)
と、ずばといいあてられたような例は、かつてなかった。
なぜならば世間の大雑把な記憶では、桜田門の十七浪士は、すべてもう死んでいるものとしてあるからだった。
それにまた、磋磯之介は、烏山を去ってから、越後に隠れ、後にまた、常州の湊の戦乱に参加して、ほとんど、世人の思い出しそうな所には、一日も身を置いていなかったせいもある。
明治になってから以後は、旗岡剛蔵と変名して、東京警視庁の巡査を拝命し、自分が桜田事変に加わっていた一浪士であるなどという事は、にも、人に語った例がない。
――しかし、桜田の残党がまだ一、二名どこかに生きているはずという事を、確信している方面もあった。それは、彦根の士族たちだった。
維新後――大老の理想だったという開港貿易の隆盛を見ると、井伊家の旧臣たちの間では、早くも、大老を開国の先覚者とし、その死を顕彰して汚名を雪ごうとする銅像の建設運動が始まっているほどだった。