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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

三

三

さだめし見っともないざまに見えたろうが、まったく、夢かとわしは驚いたのだ。しかも、猿が出てからちょうど十八日目である。

「柾木孫平治に、放免申しつける。ただし御城下十里外へ、御追放の事」

役人からいい渡された時、わしはどんな声を発したか、どんな顔をしたか覚えがなかった。

手の舞い足の踏むところを知らず――という言葉どおり、奉行所の門から世間へ素ッ飛んで行った。いつか先に蜘蛛六が放免になった時、

(あれほど牢内では目をかけてくれたのに、出るとなると、挨拶も忘れて行きやがった)

と、憤ったが、自分がその身になってみると、やはり蜘蛛六と同じ事をしていた。

わしは長良川の上流を、十里余も溯って、たった独りの老母がいる関の宿の在、下有知という草ぶかい田舎へ一本槍に帰って来た。

わしの姿を見た時の、その時の老母の欣びよう。それは生涯、眼から消えなかった。

獄舎の中で、熊みたいに生えた髯を、まず剃り落したが、その髯の毛を紙につつんで神棚へ上げておいた。

そして毎日、

「忘れませんように」

と、自分の髯を拝んでいた。

月日が経って、ようやくわが身に返るにつれ、わしにも猿殿に対する敬慕が強くわいて来た。