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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

二

と、云った。

家光は、友矩のことばに、興を唆られて、十兵衛を呼べ、とすぐに云い出した。だが、陪観者の中には十兵衛の姿が見えなかった。近習たちは、

「たしか見えた筈だが」

と、彼の姿を急に探し廻った。

広芝から少し下がった浜辺で、十兵衛は、上覧試合もよそに、弁当を開けて、独りで酒をのんでいた。

「お召です」

「十兵衛どの、お召でござるぞ」

姿を見て、駈けて来た近習たちが、こう急き立てると、十兵衛はもうだいぶ酔のまわった顔を振向けて、

「何の御用か」

と、腰を上げようともしなかった。

二

「御舎弟又十郎殿と、試合えという上意でござる。すぐお支度あって、あれへお越しください」

近習のことばを聞くと、十兵衛は首を振って、浜辺の草へ、ごろりと横になってしまった。

「どうなされた? ……将軍家がお待ちでござる。十兵衛どの、すぐという仰せですぞ」

十兵衛は答えずに、眠った振りを装っていたが、執こく揺り起されて、

「御前へ悪しからず、お断りねがいたい。かねて祖父石舟斎からも師父但馬守からも、柳生流は治国の兵法と教えられておりまする。十兵衛が太刀も、遊山のお座興に供するわけには相成りませぬ。