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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁
――自分の部屋の障子を引くにも、音を偸んでそっと開けた。冷たい机の前に坐る。火鉢には火がない。机や本箱も、冷ややかに主の行跡を白眼視しているかのように僻まれた。
「だれだっ、そこの部屋へ這入ったのは」
中庭を隔てた向うの部屋で、突然、こう怒鳴った者がある。そこの窓は、長男の十兵衛三厳の部屋だった。
「は。――わたくしです」
「わたくしとは?」
「又十郎です」
「又十郎ならよい」
それなり十兵衛の窓は沈黙した。
中庭の坪の芭蕉に、黄色い秋の陽が照り映えている。秋の小さい蝶が、窓の竹をかすめた。又十郎は机に肱をのせて俯向いていたがいつの間にか、お駒の事に囚われていた。――
――あの露地から朝出る時は、もう来まいと思い、途々でも、自責し続けて来たお駒が――ここに落着くともう今でも会いたいように心がみだれてくる。
(そうだ。何も、そう自分の恋を、自分で虐めつけるには当らない。修行は修行でいそしみ、道徳は道徳として当り、恋は恋……。父にだって……ある。……四男の右門義春は現に……わしらとは腹ちがい、父の想い女の子ではないか)
――がらっと、芭蕉の向う側で、窓があいた。