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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁
「亭主っ、今この前を、乞食が逃げて行ったか」
と、居酒屋の前で、息を弾ませた。
「なに、通らん。――すると、畜生」
引っ返して、横道へ走った。葭簀茶屋を目がけて、
「ちょっと、物を訊くが」
「え」
休んでいた町人達が、
「何です、お武家さん」
「今、そこの河原から逃げ上がった若い乞食、どっちへ行ったか知るまいか」
「知りませんね」
「はてな」
と、茶屋の裏へ廻って、
「あっ向うだっ」
と、仮橋の板を踏み鳴らして、どんどん駈け出した。大根畑の白い花をちらして、岩公の逃げてゆくのが、遥かに見えた。
「おういっ。佐太郎」
武士は、二度も転んだ。
「貴様も武家の飯を食った男でないか。卑怯な奴。待てっ」
だが、岩公は、振向きもしなかった。練馬の部落へ逃げ込んだ。
水車が止まる。あっちこっちで、鶏の群れが、けたたましい叫びをあげ、翼を搏った。
「臆病者ッ、人非人めっ。返せっ、待てっ、弟の敵だ、妹の」
呶鳴りながら、旅の武士は、目や鼻をひっつらせて、泣いていた。そこへ持って来て満面の汗と埃が、凄い形相を彩っている。
旧家らしい土蔵つづき、そこの母屋の前庭へ、向う見ずに駈け込んだのである。