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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁
二
夜こそ淋しいが、昼間は、無数の脚がそこを通った。――摺りきれた浪人の草履、女の白い踵、袴の折目正しい白足袋、裾模様、と思うと――あだな左褄、物売りの疲れた足。
それから、野良犬、野良犬、野良犬。
「地べたが流れてゆく――世の中が移ってゆく――。して俺は」
発作的に、彦太は、帳場の中から突っ立ったりする事があった。だが、この紛雑した世相のどこへ一体自分を投げこんだら正しいのか、彦太には、見当がつかない。
帳面で見ると、高値い仕出しの料理や、贅沢な重箱物が、船宿や、妾宅や、ばくち場や、およそ享楽的な集合所へ、どんどん出ている。何が不景気で、どこが戦だか、数字は、反対を示している。
「一体、世の中ア、どうなるんだ?」
口癖にいうその言葉を、地震に狎れた感能とひとしく、江戸の半面は、享楽してるようにも見える。
で、彦太も、嘆め息みたいに、時々、独りいうことがあった。
「一体、どうなるんだ! この世間は」
二
伯父の弁政も、お村も、一緒になって、腹を立てた。
「今になって、嫌だなんていわれちゃ、私たち夫婦が、何といって、割下水の殿様へ、顔向けがなるえ。それじゃ、笹本様へ、まるで、からかい半分にお願いした事になるじゃないか」