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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

三

「さ、見つかった」

と、火除地へ、急いで来たが、案外な――という顔をして、

「はてな、何処へ」

と、遠ざかった駕を、必死に、追いかけて行った。

だが――それがやがて、千坂家の表門へ、駕通しに、ずっと呑まれてしまったのを見届けると、

「ああ、しまった!」

と、何もかも、泡沫に帰したように、しばらく、茫然と、厳しい門扉を眺めていた。

「どうも、しかたがない。――やはりそれだけ、千坂兵部の手が大きいのだ。お信さんや……」と、振り向いて、

「お前も、いろいろ、苦労をしなすったね。だが、これからは、大きな人物のふところで、雨にも、風にもあたるまい。木村丈八郎の妹だといって、そこの家をたずねなさい。……何、わしかい? わしはまあ、遠慮しよう。じゃ、御機嫌よく」

と、お信を置いて、それなり、風のように姿をかくしてしまった。

三

呉と越と、仇と敵とが、こうして一つの釜の飯を食う、食うのが、間違っているか、宿命なのか。

本所松坂町の吉良家の侍部屋で、もう一年と幾月かを、思わず暮してしまった丈八郎は、

(なんと、人間は、ふしぎな生きもの)

と、感ぜざるを得なかった。人がではない、自分がである。