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じろきちこうし

治郎吉格子 名作短編集(一)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《治郎吉格子 名作短編集(一)(じろきちこうし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 178,609 字 · 362 頁

青空文庫

「ありがとう存じます」

静かに、下げた頭を、上げてみると、もう小藤次も外記も、見えなかった。

――明後日。

そんな早くとは、雲霧は思わなかった。白洲の吟味ぶりも、蔵六の話も、月半ば過ぎだろうという事だのに、どうして磔刑の日がそんなに急になったのだろうか。

「――するともう、今夜と明日の晩」

磐石と信じていた彼の覚悟は、騒ぎ出して来た。俺は天下の大盗だ。俺は緑林の巨人だ。――と心にいって聞かせても、騒ぐ波はしずまらなかった。

夜になると、また、牢番たちに、交代の時刻が来たが、蔵六だけは顔を見せなかった。それとなく訊いてみると、蔵六は風邪ッ気で今朝、戻るとすぐ床についたといって、娘のお登利が、病気の届けを持って来たという話。

翌晩の七刻になった。

だが、待っていた蔵六は、やはり来ないで、隣房の番人が、代って牢の前に付いていた。

きのうから悶え出した雲霧の心は、もう、眸に出て、落着かない光をぎらぎらと、牢の中にさまよわせている。しまったッ、しまったッ、と胸の底で叫びぬいているように。

「あ、あ……」

時々、牢天井へ、彼は弱々しい嘆息をあげて、

「今夜きりだ」