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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁
夕雲が赤かった。梅雨も霽ろう。どこか風もさばさばと感じられる。ふと、開け放たれているお広間を窺うと、猿殿は、御舎弟の秀長様とお揃いで、御母堂の前に出られ、何か笑い興じながら、兵と同じような粗末なお菜で、湯漬を食っているのだった。
「久しぶりよの」
御母堂も、箸をとっておられた。秀長様も御相伴している。開け放ってあるので、彼方で兵が食べているのも見えるし、兵の方からも見通しなのである。
こういう有様は、わしはどこの大名方の家庭でも見た例がない。思い出すも胸が痛むが、光秀殿などは殊さらに厭う事である。眉をひそめて、下賤というに違いない。
だが、猿殿のお姿からは、下賤などという感じを受ける前に、美しさ自由さを感じる人間の姿のほうが先へ迫ってくる。わしは物蔭から、茫然と見とれていた。
「戦、また戦と、留守がちでござれば、母君にも、間には、お寂しゅうございましょう。お歌は、ちっとは、進みましたかな。舞など、稀には御覧なされまするか」
「勿体ないこと、そなたが戦場に臥してあると思えば」
「そんな御遠慮は、わが子に御無用なこと。妻のおすすめが、不束なのでござりましょう」