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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

――彼は、故殿下の御亡前の誓約をたちまち裏切って、秀頼公の天下が、日に日に、家康の手に移ってゆくのを見ておられぬ漢なのだ」

「そうかなあ……」

と刑部は深く吐いて――

「そうあれば、同じ敗れるまでも、山城の為に、欣ぶが」

「思うてもみい! 刑部」

三成の耳朶は、紅かった。――刑部は自分のほうへ、彼がズズと畳をずる音をさせて来たので、ハッと肩を持ち直した。

「つい昨日は、諸国の大小名も、武士も、下民も、故太閤殿下の恩徳を称え、今日は、そのように、徳川内府ならでは、夜も日も明けぬというような――そんな軽薄な人心を――世態を――お許は憤ろしいとは感じないか」

「わしは、怖ろしいと思う」

「怖ろしいとは」

「倦む、すぐ、望む。そうして、いつか戴くところの司権者を変えてしまう、下民の力と、その飽き性が恐い。――武家は天下を、自分の弓矢で奪っていると思うているか知らぬが、そうじゃない、天下は下民がうごかしているのじゃ」

「いや、そうとばかりは云えん。――彼等には、選ぶべきを選ぶ知識がない。――喩えば、徳川内府の如き老獪に、われらは天下を渡すわけには参らぬ! 秀頼公をさしおいて、のめのめと、内府の思うつぼへ天下を差し出して、何と、故太閤殿下へ、あの世で会わす面があるか」