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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

群衆は、御幣を立てて曳いていた飾り馬の背へ、無理に彼女を乗せて囃し立てた。

麓の役所には、ほかの村々からも、もう何百人もの人々が集まっていて、

「わしら与右衛門様の前へ、何と云って出る面あるべえ。あんなお方を怨んだり悪く云ったり、面目のうて、仮面でもかぶらずば小屋へ行けぬわい」

口々に同じ事を云っていた。

馬の背のお珠を迎えると、彼等は、

「お嬢様あっ……与右衛門様のお嬢様あ……」

ただそれだけの事しか云えなかったが、手を振り足を踊らせて歓呼した。

「与右衛門様が、酒下さった、さあ飲めや。おゆるしを待たいでも、与右衛門様はおら達の親じゃ、親の酒じゃ、いただいて一囃子ここで囃して登ろうぞ」

狂喜の人々の上に、薫しい酒の香がながれ、踊り出す者を見ると、笛は笛を吹き、太鼓は太鼓をたたき――その者達もまた吹きながら叩きながら踊り出した。

「――変だぞ、お嬢さあん! 早く御座らっしゃれ」

上の方で、突然誰か叫んだ。見ると、道化面をかぶって先に登って行った者が、それを抛り捨てて、

「小屋の戸が閉まっているままでねえか。――今頃まで、与右衛門様にないこっちゃ」

誰よりも早かったのは、お珠の転ぶように駈けてゆく姿だった。