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やぎゅうつきかげしょう
柳生月影抄 名作短編集(二)
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁
もう河の中も、夜半だった。
船止めでつかえた無数の船が河を埋めて眠りに落ちていた。権十は、醤油くさい自分の伝馬船の中へかくれ込むと、すぐ陸へ架けてある渡り板を引き、苫の中でほっと人心地を呼びもどした。
「お松。……お松。……もう寝たのか」
さすがに、子に恥じながら、箱行燈へカチカチと灯を磨って、何気なく自分の蒲団を隅から引っ張り出した。
途端に、
「――あっ?」
権十は喚いた。
びッくりして、跳び退いた弾みに、苫の天井でひどく頭を打った。狭いので足はまた、お松の寝顔にけつまずき、お松も驚いて刎ね起きた。
そして、権十の驚いたものに、お松もびくッと顔色を変えるなり、
「怖いッ――」
と叫んで、父の体へしがみついたまま、俯ッ伏してしまった。
苫の隅に、じっと、身を屈めていた人間がある。若い侍なのだ。――勿論、権十が入ってくる前からここに隠れていたに違いないのだが、逃げ遅れたのか、燈火のつくのを待っていたのか、今まで息をころして屈んでいたものと思われる。
「……?」
驚きの余り、権十は眼を空虚にして、唖みたいに、しばらくはただその侍を見つめていた。
泥まみれな脚絆、草鞋ばき、股立を括った袴は破れていて、点々と血らしいものがついている。