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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

てまえが出牢した日から十八日目に出してやって下さい。その間に十分善心に立返るようにしてありますから――との事で、その通りに御放免になったわけだが」

それで猿殿の予言したわけは解けたが、そう聞いてから、わしは一層、猿殿に敬慕を増した。神秘の霊力を備えている非凡人よりも、猿殿の人情に打たれてしまった。赦免と聞くなり、後に残る獄人たちへ、挨拶もわすれ、手の舞い足の踏むところも知らずに、山へ行く人間とは――わしなどとは、格段のちがいのある人物だという事が、後になるほど分って来た。

で――

「何日かは一度」

と、再会の日を心に誓い、忘れたこともなかったが、遠国へ行く事は、老母の為に思い立てず、つい月日を過していた。

その老母はまた、わしが家へ帰ってから程なく床につき、わしは猟師や百姓仕事をして食っていた。どんなに飢えても、ふしぎな程、以前の悪心はもう起らなかった。以前の自分を思うと、自分でないような心地がした。

すると丁度その年。――その年は弘治二年で、もう毎年の雨期に近い五月の初めだった。

真っ暗な雨雲の空が、宵の口から真っ赤になり出して、長良川の下流の方は、夕焼を見るようだった。