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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

意地にも坐っていられなくなり、わしは老母を背中へ背負って、火の粉や銃音の中を、駈け出した。

「もう駄目だ」

森も焼けている。麦も蹴ちらされている。わしは末期の村を見た。火を噴いていない家はない。

「ちぇっ、こんな国主の下に、いてやるものか。そうだ、山越えして、越前へ出よう」

両軍の陣は、ちょうど、火になっている下有知を挟んで戦っているらしく、どっちへ行っても陣があった。無数の死骸が捨てられてあった。

やっと、安曾根の渓谷まで逃げて来た。そこはもうかなり高いので、両軍の形勢が一目で分った。そして、山城守道三が、全面的に、もう敗北しているのが分った。

遠い山から、炭焼小屋でもあるように、煙がのぼっていた。それは皆、道三方の与党の城が焼けているのだった。

「どっちが勝っても、こんな事じゃあ、どっち途、長持ちする国じゃあねえ。焼けろ焼けろ、もっと焼けろ」

何の未練もない気がした。だが、背中の老母にしてみたらどうだろうか?

ふと、自分の背を、肩ごしに覗いて、

「なあ、おふくろ。俺あこれから、越前へ行こうと思うが、おふくろはどう思う。越前は朝倉家の領分だから、あそこなら穏やかで、新しい魚は食えるし……。