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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《柳生月影抄 名作短編集(二)(やぎゅうつきかげしょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 173,309 字 · 352 頁

青空文庫

「――有難うね」

初めて口をきいたのだった。

仮橋をこえて、振りかえると、岩公が薄暗い河原で、大きな嚔をしていた。

翌る日、お次はまたそこへ来て、

「まあ岩公、まだ探してるの」

と、吃驚した。

「ねえ筈はねえもの」

岩公は、同じことを答えた。

三日目も四日目も真っ黒になって、泥土の中を脚や手で探っている彼を見た。お次は、街道の旅人や、土地の人にも、きまりが悪くなって、

「頼むから、もう止めてね」

と、いった。

岩公は、やめなかった。

「ねえ筈はねえ」

と、いった。

「後生だから、止してよ。止さなければ、私、もう明日からここを通らないから」

そういって、脅かすと、やっと次の日は、飯櫃を前において、岩公は河原に坐っていた。

慾でやっていたのか。

でなければ、少し抜けているのか。

お次は何だか、岩公に少し嫌な気がさしてきた。

もうそんな事も忘れて、冬を越した。春は、大根の花が咲く。

練馬といえば大根の産地なので、殊さら、沢庵漬問屋とは呼ばない。樽屋という旧家だった。彼女はそこの娘だった。

石神井川の仮橋は、豪雨があるとすぐ流された。

また、半町ばかり、新しい仮橋は、位置が変った。