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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
線上閱讀吉川 英治《源頼朝(みなもとよりとも)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 頁
「その折の様子で」
と、云う。
頼朝のいる幽室へ案内して来たのである。
元より燈火は置かれていない。
春とはいえまだ夜は寒いのに、蔀障子も開け放されていた。大廂からまだ低い宵月が映しこんでいるのに、そこを閉め惜しんでいるかとも思われる。
「ここがお室でござる」
宗清にささやかれても、重盛はそこの広縁に佇んで、ひと目、室内の人を見やると、凝然、身を凍らせたまま頷きもしなかった。
頼朝は坐っていた。
円座に乗せている膝の辺りまで月明りが真っ白にさしている。
きのう宗清に乞うと、宗清に布施してもろうた百枚の小卒塔婆を、傍らにおいて、それを左の手に、右に筆を把って、こよい父義朝の五七忌に、一枚一枚供養の名号をしるし、指の冷たさも知らぬげな容子であった。
「……?」
ふと。
人の佇んだ気はいに、彼は筆をとめて、つぶらな眼を上げた。
月光へ向けた眸が、らんと光って見えた。けれど広縁に佇んで自分を見ている人は、月を背にしているので、黒い影法師にしか見えなかった。
「…………」
今に何か、一言でも、ことばをかけて遣るか遣るかと、宗清は、重盛の足もとに蹲ったまま、じっと、唾をのんで控えていたが、重盛は化石したように、いつまでも物云わなかった。