Japanische Klassiker mit Furigana
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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Lesen Sie 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 150.635 Zeichen · 306 Bildschirme
琴の返しに、私からも、一首吟じて答えます」
とても世に
ながろうべくもあらぬ身の
かりのちぎりを
いかでむすばん
むかし楠木正行が吉野の宮居で弁之内侍を賜わるとの勅を拝辞して詠んだという和歌である。時と人こそちがえ、人々は幸右衛門の心根を充分に酌みとることができた。
「おう……おう……」
老松のような媼の面にも、一すじの涙がながれていた。
幸右衛門は、次の朝、家を立った。――十内もそれから七日ほどおいて同じ東の空へ向った。竹之辻の家には、丹女と九十一の媼と、ふたりきりになった。
七
江戸へ下る途中からも、十内は幾たびも、妻へ便りを送っていた。
ふるさとに
かくてや人の住みぬらん
ひとり寒けき
志賀の浦松
だの、また、
かぎりありて
帰らんと思う
旅にだに
なお九重はこいしきものを
などと折々の詠草が、手紙の末にはかならず一首二首書きそえられてあった。
この秋の暮、ふっと、燈の消えるように、九十余の老母は死んだ。良人の帰らぬ旅立ちも、老母の死にも、いまは動じることのない丹女であった。やがて辞すこの世の、夫婦一家のものが、長らく恩借していた国土に対して、あとの塵を浄めておくべく、間際まで散りやまぬ落葉をも余さず掃いているような気持であった。