Japanische Klassiker mit Furigana
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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Lesen Sie 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 150.635 Zeichen · 306 Bildschirme
三
「どうかな? ……助かりそうか」
谷将軍は、そこに凝然と立っている樺山参謀へ、顔をよせてそっと訊ねた。
「いや。どうも、むずかしいそうです」
「いかんか……」
瞬間、誰の呼吸もないようだった。将軍は、静かに枕元へ寄って、二度三度、ことばをかけた。答えもない。ただ唇がうごいた。そして寝床のうえの右の手がすこし動いた。挙手の意志を示すように。
「ひと目、見せてやるわけにゆかんかなあ」
将軍はふいに大きな声で人々を顧みた。声というよりは長大息であった。寝床の上の顔にはもう変化が来かけている。秒間をあらそうものが皆の胸をつきあげて来た。
「おい。ちょっと――」
将軍は夫人を眼でまねきながら、廊下の外へ出た。樺山参謀も児玉少佐も、軍医正もしずかにそこへ影をあつめた。
「玖満子。おまえはどう思うね。もう与倉君も覚悟のていだが」
「嬰児さまのことでございますか」
「そうだ。今しかない。与倉君父子が、ひと目会うのも、別れるのも」
「あとに遺るお子が御成人の後のためにも、やはりここへお抱き申しあげて来たほうがよろしいかとぞんじますが」
「ただ、案じられるのは、お産婦の奥さんだ。……どうじゃろう?」