Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

Lesen Sie 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 150.635 Zeichen · 306 Bildschirme

Aozora Bunko

二

一

熟れた柿が落ちている。何のことから始まったのか、柿の木の下で、兄弟は取っ組み合っていた。

小さい謙三郎は、手もなく、兄の紀一郎に投げつけられて、強かに背を大地へ打ちつけた。

「よくも投げたな」

恥辱だと思うのだ。武士の子だ。転びながらも歯軋りして、兄の足へしがみつく。

「まだ懲りぬか」

紀一郎は振り放す。小癪な弟は、喰い下がって離れない。そしてまた組む。また勢いよく叩きつけられる。

妹の英子は泣き出して、

「――母あ様、母あ様」

と、奥へ急を告げる。

書院の破障子が開いて、立ち出でたのは、兄弟の母でなくて、父の山岡市郎右衛門であった。

「また喧嘩かっ。紀一郎、大きなくせに、止めんか。謙三郎、弟の分際で、兄上に対し、何たることか」

この一喝で、兄弟は立別れ、やがて半刻もお談義を喰う。母の文子が来て詫びる。おまえの躾けが悪いからだと母までも叱言を聞く。幼い英子までが一緒に泣いて謝りぬく。女の子の可憐しさにはかなわぬといった風で、市郎右衛門は、

「泣くな、もうよい」

と、英子を宥めることに依って、一先ず母も兄弟も、以後を誡められてやっと許される。

旗本といえば歴乎と聞えるが、幕臣山岡家は微禄だし豊かでなかった。