Japanische Klassiker mit Furigana
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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Lesen Sie 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 150.635 Zeichen · 306 Bildschirme
義経は、元より何の備えもしていなかったし、その夜、郎党たちは、他の所用に出払って、あらかた留守だった。
「殿っ。夜討ですっ」
佐藤忠信と、四、五の家臣が、大声で広縁から呶鳴った。ばりばりと火のはぜる音がする。庭木へ螢のような火の粉が散っている。
「今参る」
義経はもう身を鎧っていた。静が、側にあって、太刀の革、鎧の緒など、結んでいた。
「忠信っ、忠信っ」
呼び返して、義経は、早口に命じた。
「そちは、築土を躍りこえて、御所へ急ぎ、火の手に、お案じあらぬよう、義経あらんかぎり、都は焦土とさせませぬと、お取次を以て、聞え上げて参れ。――その足で、出先の郎党どもを集合し、御所を守れ、また市中を警備せよ。義経は、京都守護の任にある者、私邸の火や、土佐房ごとき小勢の襲撃は、何ものでもない。よいか、急げっ」
云い終ると、静の手から長巻を受け取って、義経は、わずかの家臣と共に、表門へ斬って出た。静は、良人を送ると、母の磯の禅師の部屋へ、
「母様っ――あっ母様、外へ出てはいけません」
叫びながら馳けて行った。
矢も、火の粉も、家のなかまで飛んで来た。凄まじい表の武者声に、彼女の母は、耳をふさいだまま、室の外に俯っ伏していた。