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Japanische Klassiker mit Furigana

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やぎゅうつきかげしょう

柳生月影抄 名作短編集(二)

吉川 英治

Lesen Sie 柳生月影抄 名作短編集(二) (やぎゅうつきかげしょう) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 173.309 Zeichen · 352 Bildschirme

Aozora Bunko

そしてその手に杯を持った。

「じゃあ何も使い途を聞かずに……」

「元より、初めからの約束だ。おまえがそれを、情夫に貢ごうが、どんな借金に費おうが、何も訊こうとは云わないから、安心して取っておくがいい」

新石場は、深川での新開地だった。金子の二階からは、石川島の懲役場の灯がひろい闇の中にポチとみえる。秀八は、暗い海へ面を向けて、じっと何か思いに沈んでいた。

欣しそうな顔もしない。――一言、

(ありがとう)

とも云わないのである。

おまけに初めから、費い途は訊いてくれるなという約束だった。百五十両といえば算盤の弾き方を知っている清吉には莫大な金に違いなかった。彼の一生涯でも思い切った気前の一つとなるであろう程な額である。

「仕舞っておかないか。人が来るとよくないから」

杯を出した。

杯の糸底で秀八の冷たい指に、清吉の指が触れた。

「じゃあ、貰っておきます」

厚い帯のあいだへ、秀八は金を仕舞った。清吉は、自分が惜しい眼でもしていないかと惧れて、床の間の懐月堂の幅を見ていた。

意気といったようなもの――侠といったようなもの――この辰巳の女だけが持つさまざまな心伊達だの肌合いの中に溶け入って、清吉は一生涯に一度の思い出を創るつもりで、算盤を捨てているのだった。