Japanische Klassiker mit Furigana
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どうひょう
道標
宮本 百合子
Lesen Sie 道標 (どうひょう) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 846.457 Zeichen · 1672 Bildschirme
伸子からうけとった下着類を女らしいしぐさで何ということなし自分で膝の上でたたみ直しながら、その女のひとは突然、
「あなた、子供さんは?」
と伸子にきいた。
「まだです」
そう答えて、伸子は夫もなかったのに、と自分の返事が飛躍したのに心づき、
「わたしには、まだ夫がないんです」
とつけ加えた。そのひとはそれについて何とも云わず、しかしどこかでその思い出が、外国の女の病室へ刺繍を見せに来ている現在の彼女の生活とつながっているらしく、
「わたしは子供をもったことがあったんです」
と話しだした。
「それは一九一九年の飢饉の年でね。年をとった真面目ないいドクターでしたが、わたしにこう云いました、いまこの子供を生んで、育てることができると思うかって。――わたしたちは、そういう時代も生きて来たんです」
伸子は去年、デーツコエ・セローのパンシオン・ソモロフで会った技師の娘の歯のことを思い出した。レーニングラード大学の工科の実習生として放送局につとめているそのソヴェトの娘は、可愛く大きく育った十九歳の体だのに、笑うと上歯がみんなみそっぱだった。その歯は飢饉のためだった。赤坊の乳歯から本歯にうつる年ごろに、その女の児がひもじく育ったせいだった。