Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

Lesen Sie 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 150.635 Zeichen · 306 Bildschirme

Aozora Bunko

「め、めっそうもない。……母上には、いつにないお怒り、こよいはどうかなされましたか」

「さればよ、母はゆうべ、そなたの亡きお父上から叱られました。夢のうちに。……典膳、なぜそなたは、母のことなど捨てきらぬ。自らを大成して、後々の大きな孝養を心がけてくださらぬか。なし易い目前の小さな孝養に自分をなぐさめ、ふたたびはない若い日を空しく見送っているのですか。……ああ、子を愛しながらも、子に鞭打つことをなさる、お父上のきびしいお力、大きな愛のお力が借りたい。そう日頃から思いつめていたせいであろ。ゆうべそなたのお父上からこの母が叱られました。……おまえがわるい、おまえがあまいぞと」

母は泣いてしまった。これは母の本能ならぬ心をもって、必死に云ったからであろう。やがては子のまえにすら居たたまれず、寝間へかくれてなお泣いていた。

雨が降っていた。夜は墨のように暗い。その雨の中を、ただ一書かきのこして、神子上典膳は家の門を出てしまった。もちろん修行の旅へである。

典膳が幼少から志している道。また日頃の憂悶も、彼の母は、よく知っていた。よくよくな決心であったにちがいない。