Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

Lesen Sie 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 150.635 Zeichen · 306 Bildschirme

Aozora Bunko

「どこに」

と、その眼はするどく見廻している。

火のない炉部屋の炉のそばで、一刀斎は笑っていた。典膳のほうを見てではない。そこに蚊やりを燻べているこの家の主に向ってである。

「いや、愕くにはあたらない。ああいう半狂人にはのべつ見舞われるでな、わしは馴れているのじゃ。なあに、いくら半狂人でも、家人には何もせぬ。気のどくな。愕いてみな奥へ逃げこんだか。はははは」

六

典膳は土間の中に突っ立ってなお一刀斎のほうへ白刃を向けていた。幼少からいえば七歳の頃から。家出した時から数えればここ四年。寝食を忘れて築きあげてきた修行とその自信はいま血の音をたてて胸の底へ崩壊していた。さはいえ心外である。無念とも何とも云いようはない。或はいまの不覚はまったくの一失かも知れないと思う。負けてなろうか。この壮者があの老いぼれ如きに。いや負ける理由はない。絶対にあり得ない。

(自分はひとの十倍二十倍も苦しい修行をした。ひとの為し得ない艱苦をもこらえてやった)

燃ゆるような残念さがこう思う。そう信じないで行いきれるような生ぬるい今までの修行ではなかった。また、何のために、老後わずかな母の余生に仕える子の真情までを抑えて、こう長い年月遠く離れていたか。