Japanische Klassiker mit Furigana
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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Lesen Sie 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 150.635 Zeichen · 306 Bildschirme
人影はおろか、いつもの灯も見えない。ただ暗い雲の吐く粉雪のけむりに全市は霏々と顫いていた。
二
「お支度はできましたか。もうやがて七時に近うございましょう」
もう数日前から市民はあらかた避難し尽している。この宵、人声の聞えたのは、鎮台将校の官舎となっている士族町だけだった。
「お宅様も、お片づきですか」
「はい。まるで旅立ちのように」
和やかな笑い声さえ聞えた。恐いとか、悲しいとか、寒いとか、そんな日頃の観念は誰の頭にもとうになかった。
今日、鎮台からの達しには――
婦女子、老幼、病人等ハ可相成ハ、近郷ノ縁類ヘ避難サレタシ。唯、ヤムナキ事情ノ者ト、倶ニ死ヲ厭ワザル家族ノミハ、今夕七時迄ニ鎮台内ニ引揚ゲラルベシ
と、あった。
鎮台の軍議は、籠城と決定らしい。良人の方針を見とどけないうちはと、将校たちの夫人は、最後まで家庭に踏み止まっていたのである。そしてわずか半日の間に、各※(二の字点、1-2-22)、一切の後かたづけをすますと、
「もう心残りはない。後は、良人と共に」
と、心のひとつな婦人ばかりが結束して、頭巾や簑笠に身をつつみ、命令の時間までに、鎮台へ行こうと誘い合せているのだった。