Japanische Klassiker mit Furigana
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みっつのあざ
怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集
小酒井 不木
Lesen Sie 怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 (みっつのあざ) von 小酒井 不木 (こざかいふぼく) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 196.140 Zeichen · 396 Bildschirme
その願いさえ叶えて下さったら、私は安心して死んで行きます。ね、先生、どうぞ御願いします、私の一生の御願いです」
患者は手を合せて私を拝んだ。辛うじて動かすことの出来た右の手は、左の手の半分ほどに痩せ細って居た。私は患者の衰弱しきった身体を見て、手術どころか、麻酔にも堪え得ないだろうと思った。で、私は思い切って言った。
「かねて話したとおりに、これは肩胛骨から出た肉腫で、肩の骨は勿論、右の手全体切り離さねばならぬ大手術だからねえ。こんなに衰弱して居て、手術最中に若しものことがあるといけない」
患者は暫らく眼をつぶって考えて居たが、やがて細君の方を見て言った。
「お豊、お前も覚悟しとるだろう。たとい手術中に死んでも、この畜生が切り離されたところをお前が見てくれりゃ、俺は本望だ。なあ、お前からも先生によく御願いしてくれ」
細君は啜り泣きを始めた。彼女は手拭で涙を拭き拭き、ただ私に向って御辞儀するだけであった。私は暫らくの間、どう返答してよいかに迷った。治癒の見込のない患者を手術するのは医師としての良心に背くけれど、人間として考えて見れば、この際、潔く患者の願いをきいてやるのが当然ではあるまいか。